クジラやイルカの集団座礁と地震の発生には相関関係が無いとの分析結果を、東海大のチームが明らかにしたが異論ありで、地震前兆を研究する自分としては素直に受け入れられないものがある。
そこで、この結果に対する自分の意見を書いてみたい。
【目次】
【冒頭の写真】2011/03/04の茨城県の海岸に集団座礁したクジラ。
東海大チームの解析結果
1ヶ月前と、少し前のニュース記事になるが、毎日新聞で以下のような報道があった。
福島県郡山市で開かれた日本地震学会で、織原(おりはら)義明・東海大特任准教授(固体地球物理学)らのチームが発表したもの。
それによると、クジラやイルカの集団座礁と大地震の発生には相関関係が見いだせないとの分析結果を発表した。
研究チームは、1923年~2011年に国内で鯨類が2頭以上同時に浜辺に打ち上げられたり、漂着したりした48の事例を分析した。
期間中、座礁現場から半径200km以内で発生したM6.0以上の地震は計429回あった。
だが、座礁から30日以内に発生したの地震は2回のみで、チームは集団座礁と地震発生に相関関係は見られないと結論づけた。
また、東日本大震災の発生7日前の2011年3月4日に鹿嶋市の海岸にイルカの一種のカズハゴンドウ54頭が集団座礁したケースについても検討された。
だが、過去の鹿島灘の集団座礁とその後の国内の地震発生状況や、岩手県などの被災沿岸で単独の座礁例が増えていないかなどを調べたが、偶然に起きたことと判断した。
調査結果に疑問あり
このように、動物の地震前兆現象がまったく否定されると、「今まで私がやってきたことは何なの?」となる。
もちろん、その解析結果が正しいものならば、いままで誤った情報を流してきたことに対して、謝るしかない。
だが、本来このような研究は、1回だけの調査で結論付けることではないように思う。
こうした調査結果は、「ある」か「ない」か、「0」か「1」かの決定論的な結論を導き出すには強引な部分があるのではないか。
「0か1か」では、「はじめに結論ありきかい?」と勘ぐってしまう。
今回は、この条件のもとでは相関性は見いだせなかったが、他の条件下では地震との相関性の傾向が見いだせる可能性があるかもしれないとか、そういう表現を用いてもらえれば、もう少し好意的に受け取れたかもしれない。
細かい疑問点
もっと細かく見ていくと、以下のような疑問が生じる。
まず、「半径200キロ以内で発生したマグニチュード6以上の地震」という条件だが、地震の前兆現象(たとえば電磁波とか)があるとすれば、それは規模に比例して強くなるだろう。
それをひとまとめにして、「半径200キロ以内」と条件付けることに、無理があるように思う。
私の経験からいうと、クジラやイルカのストランディング(座礁)が起きるのは、必ずしも「マグニチュード6以上」のような規模の大きな地震とは限らないように思う。
たとえM4クラス程度の小規模な地震でも、近距離ならばクジラ類や他の魚類が方向感覚を狂わせて座礁や内湾に迷い込むケースが発生するかもしれない。
それから、抽出条件として「鯨類が2頭以上同時に浜辺に打ち上げられたり」というのがあるが、これにも疑問がある。
べつに大きな地震の前には「集団座礁」が起きるとは限らず、単体のストランディングも過去には多く起きていると思うからだ。
地震前兆としてあり得る事例
以下に示すのは、クジラ類の出現現場から比較的短期間で、且つ距離が近いところで地震が発生した例だ。
PC版では画像をクリックすると拡大表示される。
横長で見にくいかもしれないので、その下にテキストでも表示しておく。
◎2011/03/04:茨城県鹿嶋市の下津海岸、クジラ、52頭
→2011/03/11:東北地方太平洋沖地震、M9.0 、震度7 、7日、200km
◎2016/04/04:熊本県、天草市・上島沖定置網、ザトウクジラ
→2016/04/14:熊本県熊本地方、M6.5、震度7 、10日、60km
◎2016/04/08:長崎県、長崎市大籠町の砂浜、ザトウクジラ、
→2016/04/14:熊本県熊本地方、M6.5 、震度7 、6日、100km
◎2017/03/10:鹿児島県、南さつま市加世田・小湊海岸、クジラ、6頭
→2017/03/12:薩摩半島西方沖、M5.1 、震度3 、2日、20km
◎2017/06/10:宮崎県、宮崎市田吉の赤江浜、ユメゴンドウ、7頭
→2017/06/16:日向灘、M4.5 、震度3、6日、40km
◎2018/03/22:静岡県、掛川市大渕の遠州灘海岸、アカボウクジラ
→2018/03/23:八丈島東方沖、M5.8 、震度3 、1日、170km
◎2018/05/19:沖縄県、名護市の海岸、コビレゴンドウ
→2018/05/25:沖縄本島近海、M4.4 、震度3、6日、100km
◎2018/05/20:宮城県、石巻市の福貴浦漁港、イルカ、2頭
→2018/05/26:福島県沖、M4.7 、震度2、6日、60km
◎2018/08/05:神奈川県、鎌倉市の由比ヶ浜海岸、シロナガスクジラ
→2018/08/10:駿河湾、M4.4、震度3、5日、100km
東日本大震災は、例外的に200kmという遠距離の出現例だった。
これは、M9.0という規模では、十分にあり得ると判斷しているためだ。
熊本地震のケースも同様だが、このような内陸地震で沖合を泳ぐクジラなどに影響を与えるかは、多少疑問が残る。
島村英紀氏の意見
私一人が科学者の研究結果に異論を唱えても、所詮科学者でもない人間が一人で言っても説得力に欠けるかもしれない。
こういう時に頼りになるのが、反骨精神あふれる島村英紀・武蔵野学院大学特任教授だ。
何かしら異論を唱えてくれるのではないかと思っていたら、下記のような記事が出た。
2018/10/19のZAKZAKに寄稿された「イルカの集団座礁と地震、人間の関係 」では、「動物と地震の関係が改めて否定された。地震学会は伝統的に動物と地震の関係に冷たいのだ」との嘆き節から始まる。
そして、大地震の前にイワシ(マイワシ)が豊漁となる例を挙げている。
ところで、魚やイルカが振動や電気信号を感じる感覚器官はとても鋭いことがある。私たち地球物理学者が使っている最先端の観測器でも感じない小さな信号も捉えることができる。
たとえば、ナマズは目が悪いが、電気信号にはとても敏感で、エサになる小動物が出す微弱な電気信号を頼りにエサをとる。感覚器官の感度は、箱根芦の湖の反対側に単3電池1個を投げ込んだだけでも感じるほどだ。
www.zakzak.co.jp
このようなメカニズムがあるが故に、クジラ類や同様の電気受容機関(ロレンチーニ機関)を持つサメ類などが、地震発生の前に異常行動(座礁や湾内迷い込みなど)を起こすのも、説明付けられるわけだ。
島村氏の異説
島村氏は、こうも書いている。
カズハゴンドウは、おもにイカなどの頭足類を食べることが分かっているが、集団座礁のなかには大量のイワシを追って座礁したものがあるかも知れない。そして、2011年の集団座礁の原因は、イワシが大地震の前に鋭い感覚器で何かを感じて集まってきたのかもしれないのだ。
このような可能性も、考えてみるべきかもしれない。
民間人が地震前兆を研究するのは?
そもそも、なぜ民間人が地震前兆現象にこれだけ関心を向けたり研究したりするのか?
それは、しかるべき存在-政府・研究機関-が地震予知に真剣に取り組んでくれないからだ。
東海大の織原氏は「前兆を捉えていないとまでは言い切れないが、集団座礁を防災に役立てるのは難しい」と述べている。
だが、動物の前兆事例を、地震予知に役立てたいと思っている人は、非常に少ないのではないか。
私自身も含めて、たぶん誰も思っていない。
そのような現象が電磁波なりが原因で起きるのならば、その電磁波を測定すれば良いという話だ。
また、宏観異常現象のたぐいは、測定器などの機器を使わなくても、人間が”五感”で感じることができることが非常に重要なのだ。
海の生物の重要度
いままで多くの前兆事例を収集してきた私の経験則でいうと、海の生物で顕著な前兆事例が多いのは、「メガマウス→他の深海鮫→クジラ・イルカ→リュウグウノツカイ→その他の深海魚」の順番になる。
こういう経験が浅くて上記のような経験則がない頃には、深海魚の出現で騒いで、いろいろ失敗した苦い経験がある。
今はもうちょっと慎重に検討するようになった。
そろそろ寒くなってくると、日本海で深海魚などの出現が増えてくる。
だが、それらは必ずしも地震と結びつくものではなく、特に海水温の異常があったときには、それで説明付けた方が良い場合が多い。
だが、そのようなケースであっても、自分が住む地域の近くで出現した場合は、それをきっかけに防災意識を高めることができれば良いのではないか。
地震前兆や地震予知の研究は、多くの経験を積むことも大切だという話でした。
今日の前兆現象
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