今日は、ガムラン・ジャワの話題を。
それから、音階の話や人間の声域についても書くことにする。
インドネシア語やジャワ語の語順では、「ジャワ・ガムラン」ではなくて「ガムラン・ジャワ」なのだ。
ガムラン音楽については、11/27の下記の記事で書いた。
ある人がこの記事を見て、ジャワ・ガムランの女性ヴォーカルが特に良いと言っていた。
私もまったく同感だ。
何度も書いているように、ジャワ島で初めて生の女性ヴォーカルを聴いて、打ちのめされた。
ガムラン・ジャワの場合、ヴォーカルというのが重要な位置を占めている。
今回は、そのヴォーカルがメインとなっている曲を紹介したい。
ガムラン音楽の音階
ガムラン・ジャワの神秘性はどこから来るかというと、以下の要素があるように思う。
- ペログ音階/スレンドロ音階
- ガムランの楽器
- 驚異的な女声のハイトーン
ペログ(ペロッグ、pelog)音階は、琉球音階に似た5音音階。
西洋音階で無理やり表現すると、#♭記号なしのミファソシドに近い。
下記のWikipediaのページで、本文中の「ペロッグ音階」のところをクリックすると、実際の音で聴くことができる。
スレンドロ(sulendora)音階は、音の感覚が均等に近い5音音階で、ラドレミソに近い。
いわゆるペンタトニックスケールに近く、日本の民謡でも似たような5音音階がある。
ただし、ペログもスレンドロも、西洋音楽の音階とは音律が異なる。
西洋音楽では、純正律とか平均律などがある。
ペログやスレンドロは、これらのどれとも異なっている。
音律が異なるというのは、こういうことだ。
西洋音楽でいわれる音と音の間隔が、インドネシア音楽では異なっている。
だから、基本的にガムランの楽器は、ピアノなどの西洋楽器と一緒に演奏はできない。
時々YouTubeで、ペログ音階で演奏している曲でシンセサイザーや管楽器などと一緒に演奏している映像を見かける。
ああいうのは本当のペログ音階ではなく、西洋音階に合わせているのだろうと推測する。
細野晴臣氏などが、ペログ音階などに神秘的な響きを感じると言っているが、それは本来の音律で演奏された場合だろう。
あるいは、「ちょっとぐらい違っていてもいいや」みたいな「ティダアパアパ(何でもない、気にしない)」精神なのかもしれないが。
クロード・ドビュッシーやコリン・マクフィーのような欧米の音楽家は、自分の作品の中で十二平均律の中から5つ選んだ音階で擬似的なスレンドロ音階として曲を作っていた。
このように、西洋楽器と一緒に演奏されるような曲は、大事なものが失われてしまっているといえるかもしれない。
まず、ガムラン・ジャワの曲を、YouTubeから貼りつけておく。
ペログ音階で、シノムという形式の曲だ。
◎Sinom, Ijo-ijo pelog barang
もう1曲、こんどはスレンドロ音階の歌だ。
冒頭では、きれいな女性がアカペラで歌っている。
◎Gamelan Jawa Karw.t SETYO LARAS Ld.r Rujak Jeruk
ペログ音階の起源は?
私は個人的にいうと、ペログ音階が非常に好きだ。
非常に神秘的な響きがある。
ペログ音階の起源は、よくわかっていない。
いったいどこからもたらされたのか、非常に興味がある。
島唄でおなじみの日本の琉球音階は、このペログが日本にもたらされたものかもしれないと考えている。
たとえば沖縄の方言で「ちゃんぷるー」というのがある。
「混ぜこぜにした」という意味で、料理に使われる。
これは、マレー語(インドネシア語の元となった言語)の「campur」(混ぜるという意味)から来ていると思われる。
昔の琉球王国は東南アジアなどへ進出し、広く交易を行っていたので、いろんな文化や言葉が伝わっていたとしても不思議ではないのだ。
こういった話を続けると長くなるので、別の記事として書くことにしたい。
(読みたい人がいたらの話)
歌手の声域
インドネシアでは、男性はダミ声が多かったりするが、女性はハイトーンのきれいな声を出す人が少なくない。
ガムランの歌を歌う女性は、ハイトーンでないと務まらない。
少なくともF6(五線上の最上線のファより1オクターブ高い)の音程まで出ないと、ガムランの歌は歌えない。
スレンドロ音階の場合、G6ぐらいまで出す女性もいる。
普通の音楽ならば、声域が低いという人はキーを下げて歌う。
だが、ガムランの楽器は音域が固定されているから、移調は無理なのだ。
ちなみに、G6とかいう表現はこれからも使うので、説明しておく。
ドレミファソラシをそれぞれCDEFGABと呼んで、ピアノの中央のドをC4と呼ぶ表現だ。
下記のYouTube動画で、各音程を確認できる。
自分の声域を確認したい場合にも便利だ。
ここで、ガムランの女性歌手の声域と、普通の女性歌手のそれを較べてみる。
たとえば夏川りみだと、C6ぐらいまで出す。
古謝美佐子だと、さらにD6ぐらいまで出している。
『童神』では、D6を楽に出しているように聴こえるので、もっと高い声が出るかもしれない。
かなりハイトーンなRURUTIAの場合でも、出せるのはE6ぐらいまでのようだ。
やはり日本の女性歌手の場合、ガムランの女性歌手が普通に出しているF6を出すのは難しいようだ。
故本田美奈子の場合は、ガムランの歌も歌える声域をカバーしている。
『パッヘルベルのカノン』を歌った時は、クラシックの発生で裏声だが、なんとB6まで出ている。
ソプラノ女性歌手の声域が概ねC4〜E6だから、ソプラノの声域を軽く超えていた。
3オクターブの声を出せたという。
この人の場合、ハイトーンなだけでなく、とてもきれいな声だった。
クラシックの発声法も学んで、常に自分の声をケアしていたようだ。
美貌と美声と美しいスタイルを持ちあわせていたこの歌手の歌声をもう聴けないというのは、本当に残念だ。
声域について補足しておくと、クラシック音楽でいう場合の声域は、ただ「その音程で声が出せる」というのと違う。
ある程度の音量をもって、その音程を出せるということなのだ。
その点、ポピュラー音楽では声に音量がなくてもマイクやPAで拡声できるから、単純には比較できない。
本田美奈子よりも高い声を出す日本女性はというと、MISIAがいる。
普通のファルセットでF6ぐらいで、マライヤ・キャリーのようなホイッスルヴォイスを出すと、なんとC#7ぐらいも出ている。
この人の場合、地声はハイトーンという感じはしないが、生まれ持ってのものなのだろう。
世界に目を向けると、もっと高い声を出せる人はたくさんいる。
マライヤ・キャリーのG7というのは、世界でも別格だろうが。
ガムラン女性歌手より、更に1オクターブも高い音を出してしまうのだから。
声域と性ホルモン
人間の声の高低は、性ホルモンと関係してくる。
たとえば閉経を迎えて女性ホルモンが少なくなってきた女性は、声が低くなってくる。
では、歌う時の声域も、ホルモンと関係あるだろうか。
たとえばボーイソプラノを出す少年は、変声期前に限られるというから、やはり声域と性ホルモンは関係あるのだろう。
近代以前のヨーロッパでは、カストラート(castrato)と呼ばれた人々がいた。
高い声を出す少年を去勢し、変声期を迎えなくさせて、いつまでもソプラノボイスを出せるようにしたのだ。
だが、生まれつきのホルモンバランスのため、変声期を迎えなかった天然のソプラニストもいたらしい。
いわゆるニューハーフな人々は、ホルモン投与によって声域が高くなる。
自分の声域は?
一般成人の声域は、1.5〜2オクターブ程度だといわれている。
声楽家の場合では、2〜2.5オクターブ程度だという。
マライア・キャリーは、7オクターブの声域をもつというキャッチコピーだが、実際はA2からG7までの約5オクターブ程度らしい。
ちなみに、私自身の声域だが、あまり広くはない。
地声だと、A3〜F5ぐらい。
ファルセットでも、A5ぐらいが精一杯だ。
若い頃よりもファルセットが出なくなってきた。
でも、一般成人の声域である2オクターブはクリアしているんだな。
いつもはあんまり低い声は出さないが、キーをもっと下げて歌えば声域を有効に使えるというわけか。
ガムランの歌手の場合、ただ声が高いだけでなく、けっこう歳がいっていても非常に魅力的な声の持ち主が多い。
じっと聴いていると、ガムランの音と相俟って、恍惚状態になってくる。
聴いているだけでなく、叩いていると、もっと尋常でない精神状態になってくる。
いつまで聴いていても飽きない。
…というのは私だけだろうか。
次の曲は、美しい女性たちによる踊りがつく。
このようなスレンドロ音階の曲では、バリでもおなじみのグンデルのような楽器が活躍する。
◎Gamelan Jawa Uyon - Uyon Gayeng W.O Bharata Jakarta SINOM 1 & 2
最後の曲は、ペログ音階によるもの。
ここでも男女の踊りが見られる。
◎GAMELAN JAWA SINOM
女性たちの衣装もまた良い。
みんな高そうなバティックを着ている。
クバヤ(ブラウス)は、オランダ支配時に影響されてできていったものなのだろうか。
バリの女性が着るクバヤは特にブラジャーが透け透けだが、ブラジャーぶらい見られても全然気にしないみたいだ。
結った髪は、日本髪と似たところもあって面白い。
ちなみに、こういう曲で歌っていたり踊っている女性のほとんどは「イブゥ」(既婚女性」だ。
ジャワ人の社会では、「優雅さ」というのが大切になっている。
歌や踊りにしても、常に優雅なものだ。
このへんも、日本の文化と共通するところがある。
ガムラン・ジャワでは、特に強調したい部分を、音を大きく弾くのではなく、逆に小さく弾く。
このへんも、ジャワ人の一筋縄ではいかないところだ。
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